20年後の同窓会

同窓会が開かれる会場の建物を見上げ、 彼は少しだけ憂鬱になった。 


 「また今日も、言われるのかな・・・。」 


いかつい大きな身体と、 

こわもての顔とは反対に、 

彼の気持ちはちょっぴりしぼんでいた。 


身体は大きいけれど、気は優しい。 

そんな彼は、中高一貫の私立男子校で、

“いじられキャラ”ながら、みんなに好かれていた。


父が事業に失敗し倒産したのは、彼が高2の時。 

慣れぬパートに母が出たのを見て、 

中学から5年間続けていた柔道部を辞め、 

近くの回転寿司でアルバイトを始めた。 


職人文化が色濃いその回転寿司店は、 

部活と似たところがたくさんあった。 


先輩は絶対。 

無理難題に対しても、言い訳や問答は無用。 

部活で鍛えられていたので、

バイトは特に辛いとは思わなかった。 


ほどなく社員登用となり、その後は生来の

“人好き”な性格で、30を過ぎた頃には、 

エリアの営業部長にまでなった。 

会社で評価されることは、励みになった。 

彼はその仕事にやりがいを感じていた。 


年に一度の同窓会は、高卒で社会人になった彼

が行くことのできる、たったひとつの同窓会だ。 


厳しかった先輩も、今はオヤジ仲間。

一緒に飲みながら大さわぎするのは楽しかった。

ただひとつ、彼の心を曇らせること。

それは、旧友たちが彼の仕事をからかう事だった。 


「仕事、なんだっけ?あ〜、クルクルだったな。」 


クルクル、というのは、“回転寿司”のこと。 


飲みの席では、その一言で一同がどっと笑う。 

彼は、その輪の中で大きな身体を小さくさせて、

愛想笑いをする自分が情けなかった。 


そんな彼の会社に、資本が入った。 

“寿司屋”ではなく、“チェーン展開をする企業”になるという。

それは、“商い”から“ピープルビジネス”への変化を意味していた。 


外部からたくさんの人材が投入され、 

次々と目新しい改革案が打ち出される。 

部長としての彼の仕事も激変した。 

新しい経営方針、いくつもの新プロジェクト、

新しい・・・。 


精神的にも、身体的にもギリギリだった。 

そこにきて、労務管理も徹底していくという。

やることはこれまでより多く、

時間はこれまでより少なくとは、

いったい、どうやって!? 


ひとは、人生で何度か「もうダメだ」と思う時があるという。

彼と、彼の部下たちにとっては、その時期がそうだった。 


もっとも大変だったのは、部下との関わりのスタイルを変えることだった。

自分は学生時代もこの会社に入ってからも“体育会系ばり”の指導しか知らない。

それとは真逆の“対等な関係性でのコミュニケーション”を教わった。 


「全国の老若男女に喜んで働いてもらう」には、

全く違うコミュニケーションをしなければ。

そう思い、彼なりに取り組んだ。 


努力の成果が出るまでに、数年かかったが、

会社の売上も伸び、テレビやメディアでもとりあげられ、彼の会社は有名になった。 


心配していた同窓会は、今年は楽しかった。 

卒業して約20年、こんな清々しい気持ちになったのは初めてだった。


「“オマエの会社すごいな”って、みんなに言われました。

頑張ってきたんで、ゴッツイ嬉しかったです。」 


彼の大きな身体にふさわしい、大きな笑顔が、

午後の光の中で輝きを増したように見えた。 


今日も人生の扉を開いて出会ってくださり、ありがとうございます。 

ひとは“自分が作った”と思えるくらい取り組んだとき、何かをつかみ取るようです。 

Mika Nakano Official Blog

軽井沢から、ライフ・文化・自己実現・現実化・コーチング・ピープルビジネスのエッセイをお届けしています。

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