決戦の12月

「早い。あまりに早すぎる・・・。」 

男性が、カレンダーを見てつぶやいた。 

今日から12月。それは、決戦の月・・・。 


中堅の飲食店チェーンの課長である彼は、 

数ヶ月前にオープンした新店の命運を分ける 

この月を向かえ、神妙になっていた。 


30代半ばの彼は課長になってから数年、 

鳴かず飛ばずの成績しか出せていなかった。 

そして、その間に会社全体の業績も落ちていた。 


なんとかして今回の店は成功させたい。 

そう思って、この数ヶ月出来ることは全てした。 


原価や、人件費の数値の管理は彼がした。 

店長に任せておいたら、ほんの少しの違いで、

利益率が下がる。 


店内は勿論、敷地の掃除にも余念がなかった。 

課長自ら店舗の駐車場の掃き掃除もした。 


「あとは“ひと”だ。」 

20代の後半の店長は高卒で社歴は10年。 

まじめだけれど、引っ込み思案な点が弱点だ。 

自主性と、コミュニケーションに問題がある。 


ある日店舗に顔を出すと、 

新人パートさんがバックヤードで泣いていた。 

他のパートさんとうまくいかず、店長に相談し

たものの取り合ってもらえなかった、と言う。 


この店の人員はただでさえ足りない。 

年末の繁忙期にひとりでも辞めて欲しくない。 

店長は、いったい何を考えているんだ! 


「どうしてスタッフの声を聴かない!」 

作業中の店長をつかまえ、怒鳴った。 

店に居たスタッフ全員がこちらを見た。 

店長は黙って下を向いたままだった。 


外部の研修に自腹で行ったのは、初めてだった。 

店が、ちっとも自走する気配がなかったからだ。 


研修を受けて驚いた。 

自分は店のために出来ることは全てした。 

と、思っていた。 

けれども、自分がしていたことは、店を伸ばす

ためにしてはいけないことだった、というのだ。 


課長が直接手を下すと、店長の仕事がなくなる。 

課長が指示命令をすれば、店長はお飾りになる。 

自分が張り切れば張り切るほど、 

店長の力を奪っていたなどとは思わなかった。 


ぼうっとしていたら、講師に質問された。 


「これまでの、もっとも楽しかった仕事は?」 


最近は数値や店舗を管理しようと必死だった。 

楽しかった、という感覚を忘れていた。 


時間や空間を超えて思い出してみてください、 

そう講師に促され、十数年前にたどり着いた。 


20代初めの新米店長だった頃のことだ。 

家族客の子どもが、メニューにはない“プリン”

を欲しがり泣いた時、気がついたら近くの

スーパーに走ってプリンを買いに行っていた。 

家族で外食をして過ごす楽しいひととき、 

お客様の笑顔が見たかった一心だったこと。 


あの時のお客様家族の喜んだ顔を思い出し、 

彼は目頭が熱くなった。 

そして、最近の自分を振り返った。

数値や管理のことしか考えていない。

例の店長の下を向いた姿が思い出された。

どうも、大きく道を外れたようだった。 


翌日、彼は店長に潔く謝り、こう伝えた。 

これからは、自分は店長のサポートをする、 

店長が“自分の店”を作れるように、と。 


それが去年の12月。あれから1年が過ぎた。 


年末年始は人手も足りず、どうなることかと思

ったが、彼の店長をサポートする立場は崩れず、

微増の右肩上がり成長で、地域一の店になった。 


今日から12月。決戦の月。 

活気ある店から威勢のいい声が、聴こえて来る。


今日も人生の扉を開いて出会ってくださり、ありがとうございます。

 “自分ごと”にするのは、自分で掴んでもらわなきゃ、ムリなのよね。    

Mika Nakano Official Blog

軽井沢から、ライフ・文化・自己実現・現実化・コーチング・ピープルビジネスのエッセイをお届けしています。

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